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『富と幸せを生む知恵』

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渋沢栄一著
『富と幸せを生む知恵』(実業之日本社、2018年)

  本書は1912年に刊行された和装本、乾坤2冊計1000ページを超える大著『青淵百話』を、254ページの文庫本1冊サイズに精選し、さらに文語調だった本文を味わい深い口語調に改めることにより、100年以上前に語られた渋沢栄一の言葉が、現代を生きる我われの胸にもストンと落ちるものになることを意図した一冊です。

  同じく口語訳でベストセラーになった『論語と算盤』(ちくま書房)に比べ、歴史的な重要性という点では劣るものの、茫洋とされる渋沢思想の全体像や、その人となりを味わうという点では本書の方が向いています。これから渋沢を知ろうという方は、こちらから読んでみてはいかがでしょうか。
 

  渋沢栄一と言えば、「日本資本主義の父」として一般的には知られていますが、実は渋沢ほど資本主義の限界を熟知し、それに警鐘を鳴らし続けた人物は他にいません。「論語と算盤」は、まさにそういった彼の思想を一言で言い表したもので、「論語(=社会的道義)」と「算盤(=金儲け)」の両立(あるいは止揚)に時代の閉塞感を打ち破るカギを見出し、また、渋沢自身それを生涯を通し
て実践しました。渋沢は、みずほ銀行、JR東日本、東京電力、キリンビール、、、など、近代日本の礎を築いた480余りの企業の設立に携わった一方で、およそ600もの社会事業を同時並行で手掛けていました。資本主義を運営するには、「論語」と「算盤」が必ずセットでなければならない。渋沢の足跡からは、そういうメッセージが読み取れます。
 

  渋沢のこのような「論語」と「算盤」の両立には、西洋における「ノブレス・オブリージュ」の価値観に近いものを感じますが、実はかなり違います。「ノブレス・オブリージュ」とは、高貴な者にはそれに値する社会的責任があるという考え方で、欧米のセレブたちが、積極的に社会貢献活動を行う根底にはこの価値観があるとされています。ここにキリスト教的な「富」に対する贖罪の意識を見て取ることは容易でしょう。彼らにとって「富」とは端的に言って「罪」なのです。渋沢の思想が「ノブレス・オブリージュ」と最も違っているのはこの点です。本書の中で孔子の言葉を引用しながら、渋沢は次のように述べています。
「道理をもって得た富貴でなければむしろ貧賤のほうがよい。もし正しい道理を踏んで得た富貴ならば、少しもさしつかえない……」この言葉が示すように、渋沢は「富貴」か「貧賤」かという、それ自体に善悪を認めておらず、そこに「道理(=論語)」があったかどうかということを問題としています。この態度は、キリスト教的善悪二元論を基本とする西洋近代文明を告発すると同時に、それが遠因とされる現代の環境問題等の社会課題解決を目指すSDGsやESG投資の発想と通底しています。「論語と算盤」が象徴しているように、一見、二律背反しているように思われることを、一身に抱え続けたことに渋沢の本領はあります。

 そして、その意味では、「安全」「経済活動」をいかに両立させるかが課題とされるwithコロ
ナ時代の今こそ、渋沢のような真の経世済民の徒の出現が待たれるところです。本書は危機的状況にある、まさに今こそ読むべき一冊なのかもしれません。

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