サチン・チョードリー著
『「運がいい人」になるための小さな習慣』
(アスコム、2019年)
セレンディピティとは、「幸運な偶然を引き寄せる力」のことで、それは言い換えると「運がいい人になる」ということです。そうなりたいと願わない人は一人もいません。しかし、そのために何をすればいいのかとなると取りつく島もなく、ややもすれば胡散臭いセミナーや、高価な壺といったオカルト・スピリチュアル方面に飛びついてしまうことはよくあることです。しかし、そんな中でもアルフレッド・アドラーを源流とする「自己啓発」と呼ばれるジャンルでは、その体系化にある程度成功しており、また、ここ最近では「マインドフルネス」や「アファメーション」といった新しい手法が注目され、アメリカの新興企業などでも積極的に取り入れられています。そして、そんな背景のもとここ数年、「自己啓発2.0」とでも呼びたくなるような、これまでの自己啓発をアップデートしたような良書が次々と出版されています。
本書はその観点から言うと、デール・カーネギーの『道は開ける』やスティーブン・R・コヴィーの『7つの習慣』といった「自己啓発1.0」の後継であり、先達の教えから一切ぶれることなく、王道路線を突き進んでいます。
それを高めるために必要なこととして次の3つを挙げました。
・いいルーティンを身に付ける
・ポジティブシンキング
・利他的である
これらは「自己啓発1.0」で繰り返し述べられてきたものであり、本書の主張も煎じ詰めればこの3点に集約されます。しかし、ならば、これまでさんざん読んできたので、この本を改めて読む必要はない――と、思われた方、僕はそういう方に「ちょっと待って︕」と声を大にして言いたい。本書は今あげた3つのことを達成するための手法を、誰にでも分かるように記していることに特長があります(実際、僕は1時間程度で全部読み切りました︕)。
冒頭の「はじめに」で著者は次のように述べます。
人は「ちょっとだけ」なら変わることができます。その「ちょっとだけ」の積み重ねが、やがては自分を大きく変え、成功へ導いていくのではないか。
これまで多くの自己啓発本を読んできたにもかかわらず、自分が「運のいい人」になったという実感を得られなかったのは、読んで納得しただけで行動に移さなかったか、あるいは、一気に自己改革しようとし過ぎたためにろくに続かなかったかのどちらかではないでしょうか。本書はそういうことを見越した上で、「ちょっとだけ」変わること推奨し、「1分の習慣」として、全部で40個の「ちょっとだけ」を示します。
その最初に挙げられるのは、「『自分は運がいい』と一日に5回言う」です。口に出して言うことにより自己暗示がかかりそれが習慣化することで、最初は暗示であったものがやがて自己自身と同化する。なんだそれだけのことか、と思われたかもしれませんが、こういう小さい習慣を積み重ねることが幸運を呼ぶ秘訣です。また、著者は「運がいい人は『PDCA』より『DCAP』」とも言い、「考えてから動く」のではなく、「動きながら考える」ことの重要性を説きます。運とは結局、頭にではなく、足や手などによる行動と結びつきやすいものであることがここでは示唆されます。
こういう主張のバックボーンには、インド人ならではの宗教観や功利主義的哲学もあり、本書は非常に読みやすいものでありながら、実はかなり奥が深い。「自己啓発1.0」とインド哲学の邂逅に知的興奮を覚えました。

