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〔エッセンシャル版〕行動経済学』

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ミシェル・バデリー著
『〔エッセンシャル版〕行動経済学』
(早川書房、2018年)

早川書房と言えば、一般的には「ハヤカワミステリー」の印象が
強いかもしれませんが、海外ノンフィクションの傑作
を日本の読者に紹介してきた功績も忘れてはなりません。
マイケル・サンデル、ポール・クルーグマン、リチャード・ドーキ
ンスら、存命の最高知性の持ち主たちの著書をどこよりも
早く日本語に訳し刊行してきたその目の確かさは、もっと称
えられるべきものと言えるでしょう。
そして、なかでも同社が独占的とも言えるくらい力を入れ
て輸入してきた学術ジャンルがあります。行動経済学です。
以前にこのコーナーでも取り上げたダニエル・カーネマンの
『ファスト&スロー』を皮切りに、ダン・アリエリー、リチャード・
セイラーなど行動経済学の主要人物の著書を数多くライ
ンナップとしてカバーしています。いずれも学術論文などとは
別の一般向けに書かれた読みやすいものでありながら、行
動経済学のエッセンスを知るには十分な内容で、日本の
知的好奇心の高い層には深く愛読されてきました。また、
現代のマーケティングとは端的に言えば、テクノロジーと行
動経済学の融合です。そのためビジネスマン、特にマーケ
ターにとっては、仕事に生かせる実用書としても読まれてい
ます。そんなわけで、早川書房が刊行する行動経済学の
翻訳書には、常々注目しておりました。
さて、今回ご紹介の『〔エッセンシャル版〕行動経済学』の
原著“BEHAVIOURAL ECONOMICS”は、オックス
フォード大学の”Very Short Introductions”シリーズの
1冊として刊行されました。日本における「新書」をイメージ
すれば近いものがあるように思えます。そんなシリーズの一
冊ですから、本書は短くコンパクトで、専門性よりも網羅性
を重視した内容になっています。行動経済学初見という方
がまずはじめに読んで、そのアウトラインをつかむには最適な
一冊と言えるでしょう。しかし、それだけではありません。日
本の行動経済学の第一人者、京都大学の依田高典教
授は、巻末の「解説」で本書を次のように評します。
「初学者の教科書に良いだろうし、面白いだけのエピソー
ドに食傷気味のビジネスパーソンならば、腹応えのある教
養を楽しむことができるだろう」
依田教授の言う通り、行動経済学には、それだけを集め
ても十分一冊の本として成り立つくらい、面白いエピソード
がたくさんあります。しかし、そのせいで本質を捉えていない
「エセ」のものが多いのも事実。本書はその点「腹応えのあ
る教養」を提供してくれます。特に最終章では、さすがはイ
ギリスの東大、オックスフォード大学の出版物とあり、政策
立案する官僚の立場からの多角的な分析がなされます。
ミクロとマクロの経済学を自由に行き来するその論理展開
は他書ではあまり見られないもので、ここだけでも読む価値
を感じました。また、初期の心理学を基盤にした実証実験
から、最新の脳科学を用いた分析まできっちりカバーしてお
り、「人間とは何か?」ということを改めて考えさせてくれるも
のになっています。行動経済学は「自分たちの思っているほ
ど人間は合理的な生き物ではない」ということを暴き出した
と、よく言われていますが、実はそうではありません。人間は
人間独自の合理性のもとで、合理的に生きている生き物
です。しかし、その「人間独自の合理性」とはいったいどうい
うものなのでしょうか? それを探っていくのが、本来の行動
経済学の目標です。本書はそういう気付きを与えてくれま
す。本書を読んで行動経済学に興味を持たれた方は、同じ
早川書房から出ているリチャード・セイラーの著書をお勧め
します。こちらはエンタメ作品として楽しめることでしょう。

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