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『予想どおりに不合理』

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ダン・アリエリー著
『予想どおりに不合理』
(ハヤカワ文庫、2013年)

本書著者ダン・アリエリーは、行動経済学の世界ではノーベル賞を受賞したダニエル・カーネマンに次ぐスター。行動経済学の面白さを一般の人に分かりやすく伝えるという点では彼の右に出る者はおらず、これまで本書以外にも数々のベストセラーを生み出しています。しかし、その代表作といえば本書をおいて他になく、行動経済学は本書によりブームの火がつけられたと言っても過言ではありません。


本書のタイトル「予想どおり不合理」は、原著タイトル“PREDICTABLYIRRATIONAL”のほぼ直訳。このタイトルが本書のすべてを物語っています。本書では様々な検証実験により人間の「不合理」性が示されていきますが、そこに「えっ!」や、「目からうろこ!」といった予想外のものはほとんどありません。いずれの実験結果に対しても、「まあ、そうなるわな……」といった、これぞダン・アリエリー節とも言いたくなるペーソス溢れるじんわりとした納得感を抱かされることになります。たとえば、「予想どおりの不合理」には以下のようなものがあります。
「現金は盗まないが鉛筆なら平気で失敬する」
「頼まれごとならがんばるが、安い報酬ではやる気が失せる」
「同じプラセボ薬でも高額なほうが効く」
どうでしょうか、みなさん。いずれもどこか、身に覚えがあるのではないでしょうか?
しかし、本書はそんな人間の不合理性をあげつらって、ただ笑い飛ばしているだけでは当然ありません。すべて実験に基づいて人の不合理性を明らかにし、その原因を探ると同時に、それに対処するための具体的な方法が記されているのです。本書を読むことで「予想どおりに不合理」は、かなり回避できることでしょう。個人的には、「先延ばしの問題と自制心」について書かれた第7章は、身につまされるとともに、今後を生きる上での指針を得たような思いを持ちました。
また、これは著者の意図するところとはまったく違うかもしれませんし、こう書くとなんだか悪だくみでもしているように思われそうですが、僕のようなマーケターは職業柄、人間の不合理性をつくようなマーケティング展開を、本書をヒントに考えてしまいます。モノは買うという行為の満足度は、合理・不合理とあまり関係なく、はたからは不合理な買い物をしているように見えても、その本人にとっては大満足ということはよくあることです。考えてみれば、合理的な買い物をさせるのにマーケターは必要ありません。マーケターは「不合理ながら大満足」な買い物を消費者にさせることにある、、、と言えば言い過ぎに違いありませんが、そういう側面もあるように思います。第1章「相対性の真相」、第3章「ゼロコストのコスト」などは、不合理をマーケティングに持ち込む示唆に富んだ内容でした。
行動経済学のもう一人の雄、カーネマンは人間のこの不合理性を「システム1」、「システム2」という脳の機能を中心に説明しました。一方、本書では「市場規範」、「社会規範」という人間の社会性に着目し、その原因と対処法が追究されています。この対比は、同じことを別の角度から言っているのであり、どちらが正しいというものではありません。本書を読んで行動経済学に興味をもった方はカーネマンの『ファスト&スロー』を読むことをおススメします。

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