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『渋沢栄一「論語」の読み方』

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渋沢栄一 原著 竹内 均 編・解説
『渋沢栄一「論語」の読み方』
(三笠書房、2020年)

前のこのコーナーでは、神田昌典+池田篤史著『マーケティング×人間学』という作品を取り上げその中で、この本のネタ元となったのが、渋沢栄一の著書『論語と算盤』であると述べました。神田さんのこの本に限らずここのところ、渋沢栄一にまつわる書籍は続々と出版されています。

その背景にはご存じのとおり、2024年より新一万円札の顔に渋沢がなることにあります。今回取り上げる『渋沢栄一「論語」の読み方』もまた、そういう背景のもとで出版された玉石混交の中の一冊であるに違いありませんが、この本はその中でも一際きらめきを放つ「玉」です。単にブームに便乗しただけのものとは違い、渋沢をよく知らない人にとっても、僕のような渋沢を(勝手に)師と崇めているような人間にとっても、思わず「こういう本を待っていたんだよ︕」と声を上げたくなるようなつくりがなされています。

渋沢栄一は、「日本資本主義の父」と呼ばれるだけあり、後世の日本経済やビジネスシーンに計り知れない影響を与えたことは誰もが認めることでしょう。しかし、基本的に渋沢は実務家であり自身の思想や哲学を、学者のように体系立ったなものにすることにはあまり興味がなかったような節があります。そのために、非常に多くの講演録などが残されてはいるものの、その全容を俯瞰的にとらえようとするのは、なかなか困難なものがありました。

本書のオリジナルテキストである『論語講義』にしても、渋沢の講話を収録したものですが、そのボリュームにして講談社学術文庫全7巻という膨大なもの。聖書やパスカルの『パンセ』などもそうですが、普遍的な内容を含む書物はその神髄を正しく理解しながら、現代的な意義にアップデートした形に翻訳することが必要とされます。渋沢の思想も同様で、その茫洋たるテキストを深く分け入り、そのエッセンスに到達するためには、良き先導者の存在が求められます。

そして、そこで白羽の矢が立てられたが、科学雑誌「NEWTON」の編集⻑を⻑く勤められた竹内均さんです。この人選、実に絶妙ではないですか。科学雑誌の編集⻑がなぜ、渋沢栄一︖と思われた方もいらっしゃるかもしれませんが、科学という、一般的にとっつきにくく思われがちなものを、商業ベースの雑誌に仕上げたその手腕が、本書ではいかんなく発揮されています。

渋沢栄一という巨人の思想を体系化すると同時に、ビジネスパーソンがすぐに実践できることを重視し、実務書として読みやすくまとめ上げています。渋沢は日本に資本主義を導入した大立役者でありながら、その限界を同時代の誰よりも熟知していました。その板挟みの苦悩の末に辿りついたのが、論語……。竹内さんの良き導きにより、今に生きる渋沢栄一の思想を堪能し、ぜひ仕事に生かしてみてください。特に若い人には読んでいただきたい一冊です︕

新一万円札。キャッシュレス時代か
もしれませんが、できれば、たくさん
お目にかかりたいものです︕

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