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『売れる脳科学』

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クリストフ・モリン パトリック・ワンヴォアゼ著
『売れる脳科学』(ダイレクト出版、2019年)

 マーケティングなんてのは、学問でもなんでもない。あんなものは、ミクロ経済学の一部を、⾦儲けのために応用したも のに過ぎん︕今でこそ、そうでもなくなりましたが、僕が学生の頃くらいまでは、アカデミックな方面での「マーケティング」に対する評価はだいたいこんな感じだったように思います。いや、今でもまだ、 そういう考えが残っているかもしれません。

 現にマーケティングの大家、あのコトラー先生ですら、自⾝を「マーケター」とは断固呼ばせず、「経済学者」と名乗っているくらいです。学問とは、「知への愛(ソフィア)」が原点にあり、それ以外の不純なところに出自を持つものは学問と呼ぶに値しない。マーケティングなんて⾦儲けのためのもんだろ、、、そういう偏⾒があるために、アカデミズムからマーケティングは⻑らく不当な扱いをされてきたのだと思います。

   現在のマーケティングがミクロ経済学の一部のみに 集約できない大きな体系であることは、誰もが認めることでしょう。経済学や経営学はもちろんのこと、社会学、統計学、⽂化人類学、科学、工学、生理学、、、と、あらゆる学問の叡智を集結し、市場という大きな実験場で検証されるその様は、「総合学問」とでも呼ぶべきものを感じます。

 そんな中で、「ニューロマーケティング」という新しいマーケ ティング分野が、今注目されていることをご存じでしょうか︖ 脳科学に裏打ちされ、購買意欲が生じるメカニズムなどを脳内の電位変化等、定量データを用いて解明していくマーケティング手法のことを言います。従来のマーケティングは、市場におけるトライ・アンド・エラーの帰納により体系化が図られてきましたが、ニューロマーケティングでは、脳データの演繹に より、それの抽出が試みられます。これはマーケティングの最終系か︖ そんな予感すら感じさせるものがあります。

 本書はそんなニューロマーケティングのごく初期から携わってきた著者2名による最新刊です。この本、400ページ近い大著な上に、なかなか頑張って訳してはいるものの、翻訳⽂な らではのとっつきにくさもあり、読むのにかなり骨が折れます。

 その結論として⽰すところは、従来のマーケティングと大差はありません。むしろ従来のマーケティングの正しさを脳 科学の観点から敷衍した内容と言えます。「理性脳」と「原始脳」を対⽐し広告が刺さるためには、まず後者を動かす必 要があるという本書の中⼼的主張も、一⾒独自性があるようにも思えますが、⾏動経済学の「システム1」と「システム 2」にちょうど対応しており、特に目新しいものとは言えません。 そういう訳で、ニューロマーケティングを詳しく学びたいという方 は別ですがそれ以外の方は、本書を最初から最後まで熟読する必要はないかと思います。ただし、以下に記す「説得⼒ を高める6つの刺激」は、本書の慧眼とも言える指摘ですの で、これは記憶しておいた方がいいでしょう。

【説得⼒を高める6つの刺激】

1.個人に関わる刺激 2.対⽐できる刺激 3.具体的な刺激

4.記憶に残る刺激 5.視覚的な刺激 6.感情的な刺激

「原始脳」は以上の6つの刺激を得て、それを本能や記憶と照らし合わせながら「好き」と「嫌い」を判別します。これ は、もともとは生存確率を高めるため、感覚系で得られた情報に近づくか、逃げるべきかを判断するための機能だったと考 えられます。それが、ヒトにおいて喜怒哀楽の「感情」をつくり だしているのです。感情が生まれると自律神経系への出⼒を介して⼼臓の機能が変化するので、太古のヒトは「こころ」 が⼼臓にあると考えました。購買意欲が刺激されたときの、あのドキドキ感は、このようにして発生するのですね。

 ニューロマーケティングは、マーケティングそのものを変えてしまうかもしれない大きな可能性を感じます。しかし、現状はまだ「労多くて功少なし」といった感が強く、これからの発展が 待たれるところです。ちょっと注視していきたいと思います。

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