D・カーネギー著
『カーネギー話し方入門 文庫版』
(創元社、2016年)
デール・カーネギーの作品をこのコーナーで取り上げるのは
今回で2回目です。ここのところ、カーネギーだけではなく、
ナポレオン・ヒルやアール・ナイチンゲールといった、
アメリカの古典とされる自己啓発本をここではたまに取り上げて
きました。
これらの著者の本が歴史的名著であるのは間違いありません。
しかし、今読む意義がどこまであるのか、という点になると
人それぞれ意見が異なるのではないかと思います。ビジネスと
は常に時代にキャッチアップしていかなければならない、古典
などを読んでいる暇があるのなら、最新のものを読み先端の
知見を身につけるべき――、そういう意見には僕も一理ある
と思います。しかし、それでも古典には長年読み継がれた
だけの理由があり、そこには何年経ってもかわらない人間の本
質的な部分が示されているはずです。だから、ここで紹介を
してきたのでした。
しかし、今回ご紹介する『話し方入門』は、同じカーネギー
の書いた本ですが、けっしてそういった「読むべき古典」として
紹介するのではありません。この本は、まさに「今読むべき本」
としてここに紹介いたします。
原著 、
”HOW TO DEVELOP SELF-CONFIDENCE
AND INFLUENCE PEOPLE BY PUBLIC SPEAKING”
(意訳すれば「自信をもってスピーチし、聴衆を魅了する方
法」くらいでしょうか)が、アメリカで発売されたのは1926
年。ってことは、今から90年以上前に書かれた本ということに
なりますが、その内容は古びるどころか、ますます重要性を増
しているように感じます。
昔はスピーチと言えば、政治家や偉いさんができればいい
特殊能力のようなものにみなされていま
したが、プレゼンなどの機会の多い現代のビジネスマンにとっ
ては必須のスキルです。本書はそうなることを予見するかのよ
うに、万人に向けてスピーチ上達の道筋を示します。
その道筋について、ここで細かく語ることもできませんので、
下に記した目次をご覧ください。ご覧いただけば分かるとおり、
この本はそれほどテクニカルなことや知識系のことは書かれて
いません。しっかり決意すること、準備をしっかりすること、
しっかり練習すること……、そういうことが繰り返し語られます。
そういうことを通して、小手先のスピーチ上手になるのではなく、
心に響くスピーチができる人間性を涵養(かんよう)していく
ことを目標にしています。
「同じ言葉でも、誰が言っているかによって意味が変
わってきます。だから、まず言葉が相手に響くような自分
を作らなければならないと考えています。」
これは先日引退したイチロー氏の言葉です。この本の目的
とするところも、こういうことなのだと思います。イチロー氏の引
退会見に感銘を受けた方も多いと思いますが、この本を読
むことで、それにちょっと近づけるかもしれません(?)。
本書の中でカーネギーも指摘する通り、スピーチの中の5W1H
で一番重要なのはWHAT(何を言うか)でも、HOW(ど
のように言うか)でもなく、実はWHO、つまり「誰が言うか」
です。この本はそういうことに気づかせてくれました。