読めば確実にあなたの血となり肉となり、
さらには武器にもなるであろう書籍を毎回一冊ご紹介。
今回取り上げるのは、こちら――
鈴木康之著『名作コピーの教え』(日本経済新聞出版社、2015年)
鈴木康之さんといえば『名作コピー読本』(以下『読本』)
の著者として、僕ら世代の広告関係者にはおなじみの方です。
僕がこの『読本』を最初に読んだのも、
今からもう30年くらい前になります。
当時は、糸井重里さんや林真理子さんなどの活躍もあり、
コピーライターブーム全盛で、
クリエイティブ志向の強い文系の若者は
こぞってコピーライターを目指し、
広告の学校などに通っていました。
また、アカデミックな分野では、
コピーをあたかもポストモダンの文学作品のように
解釈することが流行しており、
『広告批評』なんかを難しい顔して
キャンパスで読んでいる男子大学生が、
女の子にモテたりもした時代です。
当時の若者であった僕も当然、
こういった流行に多かれ少なかれ
影響を受けたものでした。
当時からクリエイティブ志向より
マーケティング志向の方が
断然強かった僕は、
コピーライターになりたいと
思ったことは一度もありませんでした。
今思えば、当時から言葉そのものより、
モノを動かす仕組みを考えるのに
僕は面白みを感じるタイプだったようです。
ただコピーを読むこと自体は大好きでしたし、
マーケティング活動全体の中での、
コピーが果たす役割の重要性については、
当然深く感じていました。
自分で書くかどうかは別として、
それを観る鑑識眼だけは常に鍛えておこうと思っていました。
そんな中で出会ったのが、
鈴木さんの『読本』だったのです。
当時のコピー関連の本といえば、
上にも少し書きましたが、
哲学を少し齧った大学生が読むような
ブキッシュなものが多く、
今だから告白すると、
何を言いたいのかさっぱり理解できないものも
多くありました。
しかし、その点『読本』は、
その語り口自体が「鈴木節」と呼びたくなる
味わい深い一つのコピーで、
読んでいて非常に心地よいものでした。
そして、その続編ともいえるのが、
今回の『名作コピーの教え』なのですが、
この本でも相変わらず「鈴木節」は健在で、
全部で46ある「教え」の一つ一つがキャッチコピーなら、
それ以外の本文はボディコピーの役割を果たしています
(示される順序は逆)。
また、この本に登場する
「コピーはモノ、コト、オモイの説明文」、
「書き上手になろうと思うな/聞き上手になれ」、
「コピーは広告主から聞いてきたいい話のお取り次ぎ」などの教えは、
『読本』より引き継がれたもので、
当時は「えっ! こんなこと言っちゃっていいの?」
と驚かされたものですが、
今思えばごく普通のことです。
その慧眼と夷険一節ぶりに改めて敬服しました。
鈴木さんの教えには一つの特長があります。
それは、体系化されたノウハウや型へはまったく志向せず、
それをどう具体的に再現するかについては、
すべてその受け手に委ねられているという点です。
同じコピーを教える名著でも、
ジョン・ケープルズ著『ザ・コピーライティング』などとは
向かうベクトルが真反対であり、これは面白い対象と言えます。
しかし、だからなのです。
鈴木さんの46ある教えは、
一つ一つが実に示唆に富むものですが、
結局は最後の46番目に記された次の教えに収斂します。
「書くことは、書き直すことである」
さあ、今日もめげずに書き直していきますか。