この本の発行元であるダイレクト出版といえば、主にDRM関連の翻訳本を中心に発刊しながら、同時にそのDRMのメソッドを自社のマーケティングにも生かし、数年で急成長を遂げた企業です。毎日配信されるDRMをテーマとしたメールマガジンは、それを読むだけでセールスレターの書き方の勉強にもなりますが、これにより見込み客を獲得し、次に、こちらが驚くような大胆なオファーを提示してこちらの購買意欲に火をつけます。
オファーには「抗いがたい魅力」があることが成功するための絶対条件とされますが、ここのオファーはそれどころではなく、「申し込まないと損をする!」という焦燥感のような感情を引き起こします。見込み客はたちどころに、そしてあたかも必然であるかのように新規客へと導かれていきます。日々次のオファー施策に頭を悩ます僕からすると、毎度「今回はその手で来たか」とうならされるばかりです。が、しかし、それだけで驚いていてはなりません。
さらにすごいのは実はここからで、無料オファーで申し込んだ人を、30万円の教材を買わせるまで育成する確固たる方法論がこの会社にはあります。正確なところは分かりませんが、僕の見たところ、独自の係数を設定した顧客セグメンテーションを基に、それぞれのセグメントに対して最適なコミュニケーションが図られているように思われます。
僕はダイレクト出版の顧客の中で、そこそこ上位の顧客にセグメントされるはず(?)ですが、このようなDRMの最先端の施策を、顧客の立場で体験することで学べることは、それだけでも十分貴重な体験だと感じています。
まあ、このように、ダイレクト出版のDRM施策には感心させられることが実に多いのですが、じゃあ、実際の売り物(書籍)の方はどうなのかと言えば、正直に申し上げれば玉石混淆でその比率で言えば、「玉:石=2:8」というのが僕のいつわらざる印象です。「2割しか当たりがないのになんで買い続けるの?」という至極まっとうな疑問を持たれた方もいらっしゃるでしょうが、その方にはこう答えましょう。
2割の中に10カラットのダイヤモンドがたまに混ざっていたりもするので、8割が石と知っていても買い続けてしまう――、と。
頭のいいダイレクトさんのことですから、こういう人間心理を熟知したうえで、あえて多くの石本も量産しているのではないだろうか? それによりコストも抑えられるから、あれだけすごいオファーを提示できるのでは……? 僕は最近、密かにそんなことを疑ってたりもしています。
さて、前置きが長くなってしましましたが、今回ご紹介するこの『Simplify(シンプリファイ)』も基本「石」と断定できる内容でしたが、磨けば光ると思える部分も所々に散りばめられ、おそらく英文の原著はかなりの良書なのだろうということを感じさせるものではありました。
“simplfy”というコンセプトを「単純化する」と訳出することで、そのコンセプトの広がりを捨象してしまい、単純に「価格戦略と差別化が市場で勝つためには必要」というものに収斂させているところにこの日本語版の「石」たる理由がありますが、その部分を一歩踏み込んで深読みし、「シンプリファイする」という言葉に含まれるイノベーティブな側面を感覚的にとらえることができれば、非常に大きな示唆が得られるはずです。この微妙な石加減が、またダイレクトさんらしいと思わせる一冊。