アンドリュー・スコット/リンダ・グラットン著
『LIFESHIFT2100年時代の行動戦略』
(東洋経済新報社、2021年)
『LIFESHIFT(ライフ・シフト)―100年時代の人生戦略』が発売されたのは、2016年10月。ということは、それからもうおよそ5年半の時が経っています。この間に「人生100年時代」という、この本発のワードがいろんな文脈で使われるようになり、今を生きる我われの人生設計に多かれ少なかれ影響を与えてきました。その続編にあたる本書『LIFESHIFT2100年時代の行動戦略』は前作の主張を踏まえながら、この5年半の間に起こったAI、ロボット工学等、テクノロジーの劇的な進化とコロナ禍により激変したライフスタイルや働き方を反映しアップデートした考察が繰り広げられます。前作同様、最新のマクロデータの分析をもとに、蓋然性の高い近未来のシミュレーションを示しながら、これまた前作に引き続き様々な国籍、年齢・性別の架空のキャラクターが登場します。いずれのキャラクターもマクロデータの分析からだけでは導き出せない、個人的な悩みや事情を抱える血の通った「普通の人」たちで、自分の人生と重ね合わせて読むことができます。僕個人で言えば、ヒロキとマドカという日本人の若いカップルが自分の子どものように思え、彼らのこれからの行く末のことを思いちょっとやきもきしました。「人生100年時代」は絵空事ではなく、自分事である。本書を読むと誰もがそれを実感することとなります。
本書は、第1部から第3部の3部構成になっています。
第1部は、歴史的な視座から現在の状況が考察されます。テクノロジーの進化と長寿化が進むことにより、世の中が変化していくことで僕たちの人生にどんな選択肢が生まれるのか。前作で問われたテーマがここでは繰り返されます。
第2部では、「物語」「探索」「関係」の三つの要素を軸に、100年時代に適応するために取るべき行動について論じられています。この章はやや哲学的な記述も含まれますが、言っていることはいたってシンプルです。
すべては今にかかっている。
人生100年時代とはいえ、我われが生きるのは過去でも未来でもなく、今現在この瞬間です。しかし、その今現在この瞬間にはこれまで生きてきた過去と、これから来る未来も実は含まれています。そういう人間存在の在り方を踏まえた上で、自分自身をマネージメントしていく術がここには記されています。その中で僕が至言と思ったのは次の一文です。
資金計画が人生のストーリーを牽引するだけでなく、人生のストーリーが資金計画を牽引するようにもすべきなのである。
第3部では、教育機関、企業、政府などがこれからどのような転換をしていくべきなのかという、より大きな視点で、世界的な潮流であるテクノロジーの進展と長寿化について対策が記されます。ここでの提言は主に政策に関するもので、読んでいて寝落ちすること必定です。しかし、そんな半醒半睡状態の読書の中でも印象に残ったのは、かつて理想とは「空想的」という誹りのもと、現実の前にはかなくも崩れ去るか、それに大幅なアジャストを余儀なくされるものでしたが、現在は逆に理想がまずあり、それに追いつかない現実が叱咤される対象になっているということです。この転換にはテクノロジーの進化があり、行政や企業は現実からのボトムアップではなく、理想からのトップダウンから未来を描くことが求められます。これは個人の生き方にも言えることで、「人生100年時代」とは自分の理想とする生き方がまずあり、そこからのトップダウンで今を生きることを意味します。本書はそういうことに気付かせてくれる現代の「幸福論」です。

