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『リーダーになるために 新装版』

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D・カーネギー協会編
『リーダーになるために 新装版』
(創元社、2000年)

デール・カーネギーの著書といえば、『人を動かす』と『道は開ける』の2冊が真っ先に思い浮かます。これらは発行からおよそ80年を経た今でも読み継がれているという事実だけをとっても、古典的名著と呼ぶにふさわしいものです。一方、今回ご紹介する『リーダーになるために』は、いかにもそれっぽいタイトルで、同列のものとみなしてしまいそうになりますが、根本的に性質が違っていることには留意が必要です。


まず、本書はカーネギー自身の著作ではありません。カーネギー没後38年を経た1993年に、彼の残した人材開発メソッドをもとにコンサルティングサービスを提供する「D・カーネギー協会」により書かれたものです。僕はそれと気づかず途中までカーネギーの著作と思って読んでいたので、クリン
トン大統領(当時)の話が出てきたときには、ちょっと面食らってしまいました。また、1993年の本とあり、カーネギー自身による前掲二冊のように古典として読むには新しすぎ、一方で日々変化するビジネスの世界で本書を実務書として読むには内容的に古すぎます。だいたい近年、組織論、リーダー論では「ティール組織」など注目すべき書籍が多くあります。それらを差し置いて、2021年の今、本書を率先して読む意義を感じるかどうかは、人によって意見の分かれるところでしょう。
しかし、それでいて本書をここで取り上げたのには、理由があります。本書は、デール・カーネギーのリーダー論の根幹に、「部下の承認欲求を満たす」ということがあると指摘します。リーダーをテーマとした書物ながら、誰かが指示や命令を出すというヒエラルキー構造を志向せず、組織の目的を実現すべくメンバー全員で共鳴しながら行動するスタイルが本書では提唱されます。そのネックとなるのが「承認欲求」。マズローの欲求5段階説で、「自己実現欲求」に次ぐ、二番目に高次のものとされるこの欲求は、SNSを駆動させるものとして、近年マーケティングの中ではよく研究テーマとされています。現代人は持て余された承認欲求をどう処理するかに苦悩しており、それを公然と認める体系がSNSです。カーネギーはそういう世の中の到来を予見していた……?考えてみれば、承認欲求とは食欲などと同じく、現代人にデフォルトで備わっているものでありながら、食欲が生存のために必要不可欠なものとして肯定される一方で、承認欲求はほとんどの場合、「なくてもいいもの」として過小に評価され、それを保持していること自体を認めないような規制が現代人の心には無意識のうちに働いています。それを見抜くというのは、高度に心理学的な洞察スキルが必要となり、本書の示すリーダー像のレベルは、かなり高いものといえます。そのレベルまでいくのは難しいのかもしれません。しかし、少なくとも「相手の承認欲求は何か?」を意識し、想像していくことは、これからの時代ますます必要とされるものです。本書を読む時間的な余裕のない方も、この点は心に留めておくべきではないでしょうか。

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